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ヤマトの章 8 同じ視線で 2

last update Dernière mise à jour: 2025-05-31 10:34:05

 夜、ドキドキしながら千尋が店から出てくるのを待つ。

「あの……」

千尋が声をかけてきた!

僕は千尋の方を振り向く。

「ひょっとしてこのお店で働く原さんのお友達ですか? もうすぐ原さん、出てくると思いますけど、呼んできましょうか?」

ああ……ついに千尋が人間の姿になった僕に話しかけてくれた。

どうしよう、余りにも嬉しすぎて言葉にならない。僕が黙っているからか、更に千尋が話しかけてきた。

「……あの、どうされましたか?」

どうしよう、嬉しすぎて言葉にならない。でも、何か話さないと怪しまれる。

けれど、最初に口をついて出てきた言葉がこれだった。

「会えた……」

「え?」

戸惑う千尋。

「やっと、君に会う事が出来た。……千尋」

ようやく僕は千尋と再会することが出来た――

****

 驚くほど素直に千尋は僕の話を信じてくれた。あんまり簡単に人を信じるのもどうかと思うけど、そこが彼女の素晴らしい所だから、まあいいか。これからは僕がずっと一緒にいることになる訳だから、僕が気にかければいいんだし。

 人間の姿になって千尋と何かを一緒にするのはこの上なく新鮮で、楽しかった。何より彼女の側を並んで歩ける。手を伸ばせば届く距離にいる。何度その手を伸ばして繋ぎたいって思ったか。でもそんなことをして怖がらせたくないから、我慢しないと。

 渚の身体になってから良いことがある。それは彼が料理が得意だってこと。何であんな店で働いていたんだろう? こんなに素晴らしい料理の腕前を持っているんだから、お店でシェフとして働くことが出来るのに。

千尋の為に料理を作る、喜ぶ顔を見るのは本当に幸せを感じる。口には出さないけど、全身で千尋が好きだよってアピールをする。千尋も僕の気持ちに気が付いてくれているのか、徐々に心を開いてきてくれている気がする。

でも、もっと二人の距離を縮めたいな。だって前世では僕たちは恋人同士で結婚の約束をしていたんだから。

 そうそう、一度だけこんなことがあった。仕事に行く千尋を見送った時のことだ。白い犬を散歩させている場面に出くわした時に千尋が僕、ヤマトのことを話してくれた。

千尋、まだ僕が何処かで生きているって信じているんだね。騙してる僕をどうか許してほしい。でも、今も忘れないでいてくれているのを嬉しいって思う自分もいた。

 千尋と暮らし始めて数日が経過して、大分打ち解けてく
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